おすすめ ★★★☆☆
【内容紹介】
愛着が湧く前に捨てる。それが鉄則だ。ライター業のかたわらブランドを経営し、ミニマリストな生活を発信する男、冴津。貰った物は家に帰ると捨て、家具や服は極力減らし、無駄を削ぎ落すことを追求する日々。そんな「身軽生活」を体現する彼の前に現れた“かつての自分”を知る男。その出会いは記憶の暗部を呼び起こし、信じていた世界を徐々に崩壊させていく。
【感想】
断捨離は2010年頃から流行ったそうで断捨離文化は十数年とまだ浅い歴史なんですね。またミニマリストは無駄なものを捨て、最小限のモノだけで暮らすだけではなく、人間関係も大切な人だけに時間やエネルギーを注ぎ、無駄なことを排除し、充足感を得る人たちです。
主人公の冴津は投資で収入を得ながら、「身軽生活」サイトを運営し、最小限のモノだけで楽に生活をするスマートで今の時代の最先端を生きてるような人物。サイトで知り合ったコミュニティの人々もミニマリスト。千葉に広大な敷地を購入して、タイニーハウスで暮らす夫妻。夫と子供と暮らす自宅には無駄なものを一切置かない専業主婦。大きなリュック一つで生活をしている謎の家なき男。株式トレーダーやセミナーマニアの大学院生など。。かなり個性的な人たち。会話が達観しているというか、冷めきっているというか、気の合う仲間とは思えない冷たさにざわっとする感覚を得る。わたしもあまり物を持たず、ミニマリストの暮らしに憧れていますが、登場人物たちに共感するができない。
わたしが思い描くミニマリストな生活はこの本にはない。特に徹底的に自宅をミニマル化する専業主婦には恐怖すら覚える。子供には自然の中で遊んでほしいとゲーム機を与えないのに、採集した昆虫の標本を無駄だと捨ててしまう母親。子供にとって無駄は一切ないんだよ!と言いたい。子供の知的好奇心を捨ててしまう母親にはゾッとする。。。モノを捨てる。家族を捨てる。心まで捨ててしまうのでは...。捨てることへの強迫観念に囚われているようで怖い。頂き物を愛着が沸くから、開けずに捨てる冴津の感覚もただの冷淡にしか思えず、ミニマリスト的な生き方とは思えない。ちょっと物に厳しいかなぁ..ルールにがんじがらめになってるような人って、人にも厳しい気がする。
冴津の心を揺れ動かす存在は恋人の時子。洋服をたくさん持っている女性で部屋が雑多。どの服を着るかいつも悩んでいる。着る服に悩む時間、物の保管場所、処分のタイミング、そのことで頭悩ますことがない楽な生き方をする冴津は正反対の暮らしをする時子に疑問を持ちながらも彼女の心の豊かさに惹かれている。
「楽って、そんなに楽してなにがしたいの?」
物が溢れている部屋を否定しながらも恵まれた空間だと羨望に似た感情を抱く冴津は捨てていく人生が本当に正しいのか?と迷いはじめ、物語は結末へ。???滅私??最初から最後までざわざわさせるミニマリストなのでした。
断捨離ブームで物を捨てなきゃ!という気持ちにさせられる世の中。捨てても、持ち続けても、生涯モノに支配されてしまうような人生は辛いな。楽な暮らしって何?無駄とはいったい何?と考えさせられる内容でもあった。シンプル生活は憧れるし、できるなら楽に生きたい。だけど人生は雑多だからこそ、人の厚みが出て、心に豊かさが生まれるのだと思う。自分が歩いてきた道を無駄だとは思いたくない。