おすすめ ★★★★☆
【内容紹介】
すべては大蔵大臣の失言が発端だった。国会の予算委員会において、蔵相の瑞田が、かねてより経営難が噂されていた日本不動産金融銀行の状態が「極めて危険なレベルに達しつつある」と発言したのだ。議場は騒然とし、記者たちはニュースを社へ報ずべく出口へ殺到する―まさしく、「昭和金融恐慌」の再現だった。日本不動産金融銀行は倒産へと追い込まれ、未曾有の金融パニックが日本全土に波及する。大蔵省は対応策を策定すべく、緊急チームを編成、事態収拾に向けて動きはじめる。その一方で、驚くべき事実が判明する。瑞田が読み上げた答弁書の中身は、何者かの手によって差し替えられていたのだ。となれば、蔵相の問題発言は「失言」などではなく、周到に仕組まれた陰謀だったことになる。いったい誰が、何の目的で―?現実の日本を襲う「危機」を現在進行形でシミュレートする、驚愕の金融経済サスペンス巨篇。
【感想】
政官財..政治、官僚、金融。知識の乏しい分野でありましたが、面白かった。しかし読むのに苦労した。専門用語や政策、経済、法律の難易度が高く、知識がある程度とないと読むのが難しい。わたしの理解度も半分以下でしょう。登場人物がとにかく多い。主要人物の関係性に追いついたのは上巻の終盤くらいかも。
答弁書を作成されるまでの大蔵省内の過程は緊迫感があります。パワハラが横行してて胃が痛くなりそう。どのタイミングで差し替えられ、黒幕は誰なのか?前述した通り、登場人物の多さと肩書が覚えられない。主役(探偵役)は大蔵省銀行局銀行課補佐・紀村隆之。紀村の協力者は衆議院議員政策秘書・早川聡美。大蔵省には対立している派閥があり、四階組(大蔵省銀行局)と二階組(大蔵省主計局)と中立派と分かれる。その他に高級官僚や、与党の政治家や野党、金融業界、アメリカ財務長官、経済学者や教授、未来研究所、警視庁、記者、警備員など関係者60人位が右往左往してます。ミステリー仕立てなので、黒幕の正体や動機が気になりますが、政・官・財のそれぞれの立場や思惑が細かく描写されています。細かすぎるくらい細かい。知識が足りないので内容が難しい。なので心の描写は理解していこうと読み進む。理想を掲げ熱い気持ちで立ち向かう官僚もいれば、自分の行く末を思案し、慎重にならざる負えない官僚など、法案ひとつを通すだけでも議論を重ね、審議の連続。政策を進めるには法律を変えるところから始まる。長い道のりになるはずだ。
紀村が真相に迫るために研究者に依頼した「コンプレックス理論(複雑系理論)」が面白い。あらゆる人間の行動パターンのデータ、条件をシステムでシミュレートして、政治、行政、市場、大衆心理の相互作用から金融騒動を予測するという。この時代だと精密な結果は得られないだろうけど、現代だとかなり有効的だと思う。金融パニックを収束させるために法案をせめぎあう三本の矢たちの結論はどうなるのか?黒幕や動機は?政・官・財の癒着と結合。「三本の矢」は壮大なテーマでした。
最後にビジネスマンの言葉
「ビジネスは戦争です。自分と自分の会社のために、違法すれすれのことでも平気でやらなければならないこともあるのです...(中略)...そういったことは主査をはじめ、官僚の方には理解できないでしょう。あなた方は『理想』だとか『あるべき日本の姿』だとか、宙の浮いたようなことを本気で議論する。それはあなた方が特に志が高いのでも、愛国心が強いのでもなく、ただ、あなた方が責任を取らずにすむ立場にいるからなのです。戦場から隔離された温床でぬくぬくと暮らしているからなのです。ビジネスで『理想』を追及すれば、すぐに責任を取らされるのです。政治家もそうです。それに比べ、あなた方官僚は、頭のなかだけで考えたことを実行し、いかに現実離れしていようとも、結果が失敗しても、責任を取らされることがない。だから『理想』とか『理論』とか『合理性』とか、観念だけが先行するのです」
厳しいビジネスマンの言葉は続きますが、最後に官僚への想い(願い)を伝えます。
「官僚は信念・理念を持って理想論について考えることのできる数少ない恵まれた職業である」
著者はエリート官僚だそうです。日本というシステムに負けずに少しでも理想に近づけていってほしい。